〔B L〕朽ちた無花果

分からない…
分かんないよ、晴さん…!

「…フッ」

突然、晴さんが後ろから俺を抱きしめた。
…分かる。
きっと今、晴さんは眉を寄せながら笑ってる。

困ったように、悲しいように、笑ってる。

「…言っただろ。僕には君の気持ちが痛いほど分かるって。

僕はね、佐那斗君。

君をどうこうしようなんて、ましてや君を立ち直らせようなんて考えてないんだよ。

それは君が決めて、君が考えることだから。

だから、佐那斗君がずっと逃げたいって言うなら僕はその手伝いをする。

逃げるのだって勇気がいることだ。
大切なことなんだよ?

辛いことがあったなら、君が泣き疲れて眠るまで、僕は黙って側にいてあげる。

だから、佐那斗君が心配することは何もないんだよ。」

その声色が、あまりにも優しくて。

俺を、包み込んだりなんかするから。

「……ッ、」

思わず、ガラにもなく涙なんか流してしまう。

悲しくもない。
辛くもないのに、なぜか。

なぜか、泣いてしまう。
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