貴方がくれたもの

道子はCDプレイヤーを握りしめていた。

白いイヤフォンを耳にさし、大音量で流すのは、もう顔もわからない人からもらったCDだった。

「只野さん、ナンバー8、只野さん」

道子の耳は大音量の外で自分の名前を拾い、イヤフォンを外してゆっくり立ち上がった

CDを座っていた場所に置いて、傍に横にしてあった楽器を手にすると、道子は黒いドアへ向かった。
先程道子の名前を呼んだフォーマルな服装をした係員が、楽器を抱える道子のために重いドアを開けてくれた。

道子が入ると、前の演奏が始まるところだった。できるだけ聞かないように、道子はCDの中で一番気に入っている歌を口ずさむ。
それはその中で唯一生で聞いたものだった。

震えそうになる指を開いたり閉じたりしながら、頭を寝ている時と起きている時の中間のような状態にもっていく。
次、名前が呼ばれれば、道子の番だ。

いままでの集大成。
これで、道子の将来が決まる。

「只野さん、ナンバー8、只野道子さん」

道子はベストなコンディションで立ち上がり、明るい舞台へ進んでいった。

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