嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
楽園の訪問者


わたしの楽園

それは旧校舎の1階にある図書室。

今年、新校舎が出来上がり、4月には図書室もそちらにお引越しが決まっている。

乾いた本の匂い、歩くとミシミシと鳴る木の床、生徒たちの賑やかな声が届かない静かな空間。

推薦で11月早々に大学の合格が決まり、自由登校となった1月、ここがわたしの居場所だった。

どこか懐かしい石油ストーブの横で大好きな本を読んで過ごすのはわたしの最高の贅沢。

「ユキちゃーん、職員会議あるし最後鍵かけてもらってもええ?」

司書であり現国の教科担任でもある小林先生が頼んできた。

「いいですよ。どうせまだ読みたいのあるし」

「卒業までに全蔵書を読んでしまいそうな勢いやねぇ」

「流石に全部は無理ですよ」
本から目を上げて微笑む。

「ストーブ、気を付けてね」

「はあい」

小林先生を見送り、自分の定位置まで戻り、腕時計を確認する。

5時半の閉館まであと30分しかない。

誰もいない図書室は呼吸の音まで聞こえそうだ。



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