嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜


「大原の声で呼ばれるとなんかええな」
頬杖をつき、わたしの方に顔を向けて池上くんが笑った。

目が合うとなんだか急に恥ずかしくなって下を向いてしまう。

「褒めすぎ。なんや恥ずかし・・・・・」

横から伸びてきた手がくしゃくしゃとわたしの頭をかき混ぜた。

窓の外は夕闇から完全な夜へ。

寒そうに家路を急ぐ人達をぼんやり瞳に捉えながら、ほんのり温かい心になぜだか戸惑っていた。


『今日は図書室にいる?』

ほぼ毎日、確認のメールがくる。

池上くんは車の教習所にも通っているらしく、その合間を縫って図書室に顔を見せた。

2人でストーブの側で読みふけることもあれば、時間がないとわたしが勧める本を借りてそのまま帰ることもある。

池上くんはどうやら推理小説がお気に入りのようだ。

話題になったもの、ちょっとマニアックなもの、池上くんに勧める本を色々考えることがいつしか楽しいと思う自分がいる。

池上くんは何でも律儀に最後まで読んで、必ず一言感想を言ってくれた。
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