嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜


「主任、少し向こう向いててもらえますか?」

「ん?既に全部見たし今更やろ」

池上くんの笑いを含んだ声。

「い、今更やけどお願いします!」

彼がくるりと身体を向こうに向けた隙に、ベッドからするりと抜け出し服をかき集めてリビングに走り込んだ。


一つずつ洋服を身につけながら、ほうっと息を吐く。


夢の中にいるみたいだ。



10年前に手に入らなかった恋が手のひらに落ちてきた。

蓋を閉めて閉じ込めた恋心を取り出してもいいのだろうか。

池上くんが放り投げたままのスーパーの袋を拾ってキッチンへ運ぶ。中身を出して確認してみると、随分いいお肉が入っていた。普段のわたしだったら絶対に買わない。奮発してくれたんだなあと考えながら材料を用意していると頭の上が重くなり、腰を後ろから絡め取られた。

池上くんがわたしの頭に顎を乗せている。

「しゅ・・・・・主任、もう少しで用意できますから」


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