嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
一応の書き方の目処をつけて図書室を後にしようとしたオレの視界に、何年か前に映画化された本が入ってくる。
ああ、これ当時付き合っていた女の子と見に行ったなと思いながら手に取り読み出すと止まらなくなった。
不覚にも涙ぐみながら。
閉室時間にも気付かずに。
遠慮がちにかけられた声はずっと好ましく思っていたもの。
憧れていたと言ったら言い過ぎだろうか。
夕暮れの図書室で卒業間際にキミと親しくなれたのは神様のプレゼントか。
声が好きで、話しをしてキミ自身が好きになって。
あの雪の卒業式の日、来ないキミを何時間も待った。
だけど、好かれていると思ったのはオレの驕りだった。
諦めきれなくてメールも電話も何度かしたけれど繋がることはなく、完璧な失恋を胸に抱いて東京に発った。
祖母から受け継いだという小さな家。
ペパーミントグリーンのカバーがかかった小さなベッド。
腕の中にいる小さな千雪。