嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
「だ、大丈夫です。ちょっと風邪気味で・・・・・もう帰るところなので。お疲れ様でした」
「おう、お疲れ。早く帰って寝ろ」
逃げるように会社のビルを出て駅へ急ぐ。
ただ機械的に足を動かし電車を乗換え、家に帰る。玄関の鍵を開けてドアを開けてリビングに入ったところで力尽きた。バッグを投げ捨てコートも脱がずに床に座りソファーに頭を置く。
覚悟が足りない。
こんなことで傷付くくらいなら池上くんとの関係をただの上司と部下に戻せばいい。
それが出来ないのはわたしの狡さ。
たとえ未来がなくても、あの人のそばに居たい。
そもそも傷付くこと自体が間違っているのだ。
触れられる手の温もりを
抱かれるときの静かで少し激しい情熱を
手放せないわたしが悪い。
泣いて 泣いて 泣いてーーー。
気が済むまで泣いて、明日から元気になる。
手放せないなら悲しみも苦しみも全て独りで抱え込んでその引換に束の間の幸せを手に入れる。