嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜


スマホが何度もバッグの中で震えていた。小さな画面にその名前が表示されるのを見てごめんなさいと小さく声に出して謝り気付かないフリをする。

いっぱい考えた。
だから今は何も考えたくない。
平日いい加減にしている掃除をキチンとして、溜まった洗濯をする。

平気。
また1人で、この小さな家で、好きな本に囲まれて、静かに暮らしていく。


ベッドのカバーリングをかけ替えて、ずっと動き回っていた身体が悲鳴をあげた。ちょっとだけ横になろう。お気に入りの柔軟剤の香りが身体を包み、少し気分が和んだ。

トロトロと眠ってしまったらしい。

起きたら部屋の中は真っ暗だった。

ベッドのヘッドレストの上の時計を手に取ると8時過ぎ。

買い物に行かないと何にもない・・・・・。

コートを着て、バッグを掴む。スマホがまた震えた。もう何度目の着信だろう。



明日まで待って。

明日には勇気を奮い起こすから。


スマホはバッグに入れないで玄関を出た。
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