嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
「そんなことはないやろ、営業課では随分優秀やと聞いとる」
「買い被りです」
千雪が笑っていなす。
結局、ジイさんは勧められるまま2杯目のコーヒーまで飲み干し、ご機嫌で出勤して行った。
はあーっと深い溜息ひとつ。
「修くん、体調でも悪い?」
朝食の後片付けをしながら千雪が聞く。
テーブルで新聞を広げているオレの顔を横から覗きこむようにして。
きっと朝から2人でゆっくりしたいと思うオレの気持ちなんて微塵も感じていない無邪気な千雪。
何となく面白くなくて片手で千雪の後頭部を引き寄せ、朝からするには濃厚な愛情表現で翻弄してやった。
素直で優しい性格
柔らかい声
母親は一人娘のクセにあっさりと家を出て高校教師の親父と結婚し、
孫は可愛げのないオレだけ。
ジイさんにはそらもう千雪の愛らしさはたまらないだろう。
気持ちは分かるが面白くない。
そうこうするうちに出勤時間が迫る。
出勤は一緒にと何度言っても千雪は首を縦に振ってくれない。