嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
奈々のカレシは弁護士さんだ。
大学からの付き合いだからもうかなり長い。
「決まったら言ってよね。ご馳走様でしたー」
「あ、こら!千雪!」
奈々が呼び止める声を無視して食堂を出た。
トイレで化粧直しをしながら溜息をつく。
アラサーで恋愛に興味がないのはおかしいのだろうか?
鏡の中には、真っ黒のショートボブの十人並の容姿の女子。高校時代から変わったのは、メガネがコンタクトになったくらい。
初恋がきっと贅沢過ぎたんだ。
一緒に本を読んで、他愛のない話をして、楽しい時間を過ごしただけなら良かった。
あのキスが余計だった。
今でもたまに思い出すって言ったら、池上くんは呆れて笑うだろうか。
彼の心の隅に、わたしのことがほんの少しでも残っていると嬉しい・・・・・そう思うのは未練なのだろうか。
あんなにはっきりと、卒業式の日にフラレたのにーーーー。