嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
閉館時間が迫っている。
意を決して立ち上がり、歩いて彼の元へ行く。
深呼吸、ひとつ。
さっき見たときと変わらない姿勢。
「・・・・・・・・・・池上(いけがみ)くん」
脚立の上でゆっくり本から視線を上げた彼がわたしに気付いた。
「ごめん・・・・・閉館時間やの」
一瞬、驚いたような目をしてブレザーの袖を上げて腕時計を確認している。
「あー・・・・・やべ。全く気付かへんかった」
脚立から降りて持っていた本を棚に戻した。
「貸出手続き、出来るけどええ?」
「ああ、ええよ。全部読み終わった」
「そう」
彼が戻した 本をチラリと見ると、何年か前に映画化されたもの。確か主人公の女の子が白血病で死んでしまう話だったか・・・・・。
「ごめんな、大原。オレ待ちやった?」
「・・・・・名前、覚えてた?高1のとき1回だけ同じクラスになっただけやのに」
「大原かってオレの名前覚えてるやん」
子供のように無邪気な笑顔を見せる。