嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
まだ、覚えてる。
東京の大学に進学はしたけれど、最終的には関西に戻るつもりだった。
だから就活を始める頃に祖父に『ウチの会社を受けろ』と言われたときも別に反抗もしなかった。
何の手心も加えて貰えず、一般の大学生と変わらない扱いにはあの祖父らしいと笑ったけれど。
だから、オレが会長の孫だということは一部の重役以外は知らない。
今回の転勤に伴う昇進も実力だと思っている。
転勤初日、朝7時に会長室に呼ばれた。
「出勤、早すぎるんじゃないの?」
「朝の方が仕事が捗る」
「年寄りは朝が早いから・・・・・」
「うるさいわ」
そう言いながら、机の上に分厚い封筒を投げられる。
「なに?」
「お前の見合い相手候補。持って帰って選べ。ひとりやなくてもええぞ」
しばし祖父の顔をじっと見た。
「冗談。結婚相手くらい自分で、見つけるし」
「咲子が嘆いとったぞ。モテるくせにちっとも本命彼女を紹介してくれへんって」