嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
驚いたことにこんな時間に女の子が出社している。
ショートボブのコロンとした小さな頭。
後ろから見える細い首、白い項。
課長に話しかけられた彼女は成海というらしい。
口いっぱいにおにぎりを頬張ったまま振り返った。
課長が彼女からおにぎりをもらい、オレによこした。
アルミホイルに包まれたそれは、明らかに彼女の手作りで、オレが挨拶をした途端に噎せて咳き始めた。
課長が彼女の背中をさすり、落ち着いたところで自己紹介をする。
「成海千雪です」
千雪・・・・・・・・・・?
心の奥底でカチリと小さな音がして、記憶が呼び起こされる。
動揺を隠すようにおにぎりを食べた。
大原じゃなくなっていた。
そうだよな、男にとったらまだ28だけれど、女の子にとったらまだってことはない。
10年前より少しほっそりしたシルエット。
変わらない穏やかで包みこむような優しい声。
同期なのに新入社員研修でも気付かなかったんだな。