嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
恋じゃない。


転勤してきてから感じている違和感。

何かが心に引っかかるーーー。



朝、出勤すると必ず成海がいる。

一人静かに本を開いて朝食をとっている。よっぽど満員電車が嫌いなのか。

声をかければ「どうぞ」と笑顔で朝食を差し出してきた。ちゃんと課長の分とオレの分を数に入れて余分に作ってきているらしい。

成海の側で、朝の一時をゆったり過ごすことは心地良かった。



既視感。




小早川と話していて、違和感の正体にようやく気付いた。

成海はオレを役職で呼び、敬語を使う。



同期なのに?



「は?成海は同期じゃねーよ。一コ下だ」
小早川に思い切り否定された。

同級生だったのに?
だから同じ会社に勤めていても気付かなかったのか。

大学時代に留年、もしくは留学でもしたのか?

会社では先輩になるから敬語で話す理由は分かったものの、一抹の寂しさが胸を過ぎる。

あの柔らかな声で『池上くん』とまた呼んで欲しかった。
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