嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜


「ありがとう」

池上くんの目が綺麗な弧をひき、大きな手でわたしのおかっぱ頭を撫でた。



「大原、進路決まった?」

「うん、11月に推薦で。K女の国文科」

「そうなんや、本好きそうやもんなあ」

「池上くんは?」

「オレも推薦で東京のW大の経済」

「やっぱり賢いんやねぇ、凄い。おめでとう」

急に池上くんが廊下で立ち止まる。

「なんか、大原の声で褒められるとええな」

「声?」

「そう。オレ、どっちかって言うと理系やからあんまり上手な表現思いつかへんけど・・・・・やらかい?」

「やらかい?」

「う〜ん・・・・・癒し系とでもいうのかな」

「聞いてて不快やないなら嬉しいけど」

真っ黒な硬いストレートの髪のボブと言えば聞こえがいいけれど、ただのおかっぱに黒縁メガネ。

顔も平凡。

取り立てて特徴のない容姿。

声だけでも褒めて貰えるならこんな嬉しいことはない。



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