嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜


毎日会社で顔を合わせるだけでも心が煩く騒ぐのに、週末に家でも一緒にいて、わたしは大丈夫なんだろうか?

10年前、必死で忘れようとした初恋の人。どうして今更現れて、心を掻き乱すのだろう。

あの頃ならまだ何も考えず無邪気に好きでいられた。

今は大人の事情が理解できるようになったせいで、好きになっても無駄だと自然に自分の気持ちにストップがかかる。


それでも

持ってはいけない想いだと分かっていても

傍にいられることを喜ぶ自分がいた。




なんだか休んだような、休めなかったような中途半端な週末を過ごし、また一週間が始まる。

自分の席で持ってきたおにぎりと文庫本を広げる。

「成海」

「あ、おはようございます。課長」

「金曜日は悪かったな、もう大丈夫か?」

「ああ、翌日にはすっかり」

「もうオレ、電話でさんざん叱られて心が折れそうだった。お前、あのシスコン兄なんとかしろ、あれはもう病気の域だ」
< 70 / 153 >

この作品をシェア

pagetop