嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
「あー・・・・すいません。急がへんのやったら今日帰るまでにやります。午前中はちょっと作成書類が多くて」
椅子から立ち上がって頭を下げると伸びてきた手に前髪を上に上げるようにして、頭を撫でられる。
「悪い。お前、いつも高木の尻拭いだな。今度甘いもの奢ってやる」
「いやや、小早川さんが優しすぎて怖い〜」
おどけて言うと頭を撫でる手が両方のコメカミを掴み、ぎりぎりと力を入れられた。
「痛いっ痛いです!その握力は凶器ですって!」
締められる痛さに思わず仰け反ると、背中が硬いものにあたり、後ろから回された腕に腰を取られて抱え込まれ、小早川さんの手がはずれる。
「片手でバスケットボール掴めるヤツの握力で女の子の頭を締めるなよ」
池上くんの呆れたような声が頭の上から聞こえた。
あたったのは池上くんの胸。
控えめに香るコロン。
回された腕の意外な太さ。
スーツの袖から出た骨っぽい手首。
その全てにドキドキして五月蝿くリズムを刻むわたしの心臓の音がどうか聞こえませんように。