嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
思えば今まで生きてきて、こんなあからさまな悪意を向けられたことがなかった。
軽い自己嫌悪。
30も手前にして、若い女の子の一言にこんなにへこむなんて。
しっかりしなさいと自分を鼓舞しながら、仕事をやり終えた。
しばらく机に頬をつけてぼんやりする。時計を見ると8時を少し回っていた。
帰るかと小さく声に出して椅子から立ち上がり、ドアを開けるとフロアにはほとんど人がいない。
営業の中には直帰の人もいるし、他の部署に比べると接待という名の飲み会も多い。
わたしも早く帰ろう。
ファイルを課長席後ろの書棚に戻そうと手を伸ばしたら、誰かの手が添えられ、重いファイルが難なくその定位置に戻った。
「お疲れさん」
かけられる声に心が跳ねる。
「主任・・・・・まだいてはったんですか?」
「成海が仕事してんのに上司がみんな帰るわけにいかないよ。課長は明日の朝、名古屋出張だっていうからオレが残った」