嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜


池上くんがわたしの座る椅子の肘掛に腰を降ろし、頭を引き寄せた。

頬が池上くんのスーツに軽くあたり、そこが少しずつ湿っていく。

「ア・・・・・アラサーの小局がこんなことで・・・・・泣きたくないのに・・・・・っ」

安くはなさそうなスーツを濡らしてはいけないと頭を離そうとするけれど、大きな手がまるで磁石のように吸い付いていて、池上くんから距離が取れない。

「成海はよくやってる。安心して仕事を任せられる」

優しい言葉が乾いた土に水が染み込むようにささくれた心に吸収されていく。

「そ・・・・・そんな甘やかされたら調子にのりますよ・・・・・?」

「おー、いくらでものっとけ。部下を甘やかすのも上司の仕事だ」

笑いながら池上くんがわたしの頭を撫でた。

上司と部下。

その隔たりが一般的に言われるものより近いと感じるのは気の所為だろうか?

頭を撫でる掌に、擦り寄ってしまいそうになる。


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