嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
「めっちゃ嬉しいです。ありがとうございます」
池上くんが口元を緩めてわたしの頭を撫でる。
「素直でよろしい。晩飯はどっかに食べに出ようか」
「あ・・・・・朝からシチューを煮込んでるから良かったらどうですか?」
撫でてくれていた手に頭をキュッと押さえ込まれた。
「気を遣わなくていいって言ったのに」
「遣ってないですよ。わたしが食べたかっただけやし」
ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられる。
「じゃ、有り難くご馳走になるかな」
なんだか嬉しい。
わたしからの一方通行の恋だけれど、触れられる手が、向けられる笑顔が、池上くんを好きでいることを許してくれているような気がする。
少しの間だけ、この幸せにひたっていてもいいだろうか。
本棚の前で思案顔。
「すごいな、なあ、成海のいちばんのオススメどれ?」
そばに立ち、長いシリーズものの1巻を取り出す。このシリーズを読み終えるまではわたしの家に来てくれることを期待して。