嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
「大きな声出すなよ、恥ずかしい」
聞き慣れた声に顔を向けた。
隣の席にトレイが置かれる。
「成海」
一瞬目を見開き、その後瞳が弧を描くように細められた。
椅子を引き、わたしの隣に腰を下ろす。
「池上の課の人?池上の同期で秘書課の三条です」
顎の下で切りそろえられた真っ直ぐな髪、前髪のない額はツルリとして、綺麗にアイシャドウで縁取られた少し上がり気味の瞳が理知的だ。
「あ、成海といいます。宜しくお願いします」
「こちらこそ」
目立たない色で塗られた爪、箸を持つ指先まで美しい。
非の打ち所がないとはこういうことかと妙に一人で納得する。
「で、千雪、どれにする?」
奈々が話題を引き戻した。
「この人は大輔の弁護士仲間、こっちの2人は大輔の大学時代の友達でどっちも上場企業勤務」
テーブルの上をわたしの方にずいっと写真を滑らせてくる。
「う・・・・・」
言葉に詰まって誤魔化すように丼を口に詰め込んだ。