この度、友情結婚いたしました。
「はいはい、ごちそうさまでした」

「安心して。飲みにも誘わないから。せいぜい奥さんと仲良くね」


口々にそう言うと、ふたりは人混みの中へと消えていった。

「ふー、やれやれだぜ」


えーっと……なにが〝やれやれ〟なのかさっぱりわかりませんが、とにかくどうにかしてほしいこの状況を!
さっきからずーっと痛い視線を感じて仕方がない!


「春樹、いい加減下ろしてくれないかな?」

怒りを必死に抑え言うと、春樹は「あぁ、悪い悪い」と軽~く謝りながらも、そのまま来た道を戻っていく。


「ちょっと下ろしてって言っているでしょ!?でないと恥ずかしい病にかかって死ぬから」

「バカか、そんな病気あるわけねぇだろうが!つーかここで下ろしてもいいのかよ。お前、靴履いてないけど」

「あ」


そう言えばそうだった。

春樹のバカに連れ去られたせいで、今の私、試着を終えたままの状態だった。

おとなしく運ばれていくと、店員さんがホッと肩を落とし、安心したところで駆け寄ってきた。


あぁ、すみません店員さん。
決してこのまま逃げる予定はございません。
そしてこのお洋服は、もちろん購入させていただきます。

やっと試着室まで戻ってくると、春樹はすぐに私を下ろしてくれて、様子を窺っている店員さんを見据えた。
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