この度、友情結婚いたしました。
いきなり両手を掴まれ引き寄せられたと思ったら、カートの手すりを握らされた。
そして私の手に重ねるように置かれたのは、春樹の手――。


「ちょっとちょっと!なんですか、この手は!」

すぐさま春樹を睨むも、ニコニコ笑っているだけ。

「いいじゃん、なんか新婚っぽくて。仲良く買い物タイムと行こうぜ」

「はぁ?誰が仲良く買い物タイムなんかっ―……っ!」

「はい、却下―!行くぞ」


素早く背後に回ると、春樹は手すりを握ったままの私の手ごと押し始めた。

「ちょっと春樹っ……!」

「ほら、なにが食いたいか早く言えよ。でないと買う物も買えないだろ?」


悪いけど今は食べたいものをセレクトしている場合じゃない。

思いの外背後から密着された身体に、もろに春樹の体温が感じられてしまいそれどころじゃないから。


「あらまぁ!若いっていいわねぇ」


当然私達はスーパー内で一気に注目の的となり、近くにいたおばちゃんが、からかうように話しかけてきた。

こっちは恥ずかしくて顔面蒼白だというのに、春樹は声を弾ませた。

「そうでしょ?なんてったって新婚ですから」


得意気に堂々と話す春樹に、おばちゃんも面食らったようで「ごちそうさま」なんて決まり文句を残し、去っていった。

おかげでますます注目の的。……もう本当にいやだ。どうしてこんな辱しめを受けなくちゃいけないのよ。
おまけにここのスーパー、頻繁に利用しているところなのに……!これ以上目立っちゃったら、通いづらくなっちゃうじゃない。
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