この度、友情結婚いたしました。
そっと鍵穴に差し込み、玄関を開けると真っ暗な室内が映し出される。

たった二日間不在にしただけなのに、灯りを点けると見慣れた光景にホッとしてしまうのはなぜだろうか。
まだここに住み始めて数ヵ月だというのに。


ちょっぴりしんみりしつつも、当初の目的を思い出し慌てて自分の部屋へと向かう。

「あった、これこれ」


読みかけの本を手に取り、適当なバックに詰めていく。
そしてそのまま家を出ようとしたけれど、ふと玄関に向かう途中通ったリビングで足が止まってしまった。


「なによ、意外と綺麗にできているじゃない」


たった二日間だけど、春樹のことだ。
散らかし放題かと思ったけど、綺麗に片付けられていた。そのままキッチンに向かうも、こちらもシンクに洗い物もなく、綺麗なまま。
おまけに帰りが遅くなるからか、洗濯物はしっかり部屋干しされているし。


私がいなくてもいつも通りの生活を送っているわけだ、春樹は。


あれ……?なんでここで苛々しちゃうんだろう、私。


おかしくない?別に苛々するところじゃないよね?むしろ喜ぶべきところじゃない。

春樹は私がいなくても、ちゃんと生活を送っているんだから。


「そうだよ、私がいなくても平気なんだ――……」

そこまで声に出してハッと気づく。


やだな、私ってば。面白くないんだ、春樹がいつも通りの生活を送っていることが。
私がいなくても変わらない日常生活をしていることに、苛々しちゃっているんだ。

気づいてしまった感情に、軽くよろめいてしまう。
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