この度、友情結婚いたしました。
「ごめん、あさみが待っているからもう行くね」

春樹の顔を見ることなくすぐさま立ち去ろうと靴を履き、出ようとした時。

「待てよ!」


ドアノブに手を掛ける前に、素早くその手を掴まれてしまった。
たったそれだけのことで、尋常じゃないほど心臓が飛び跳ねてしまう。


「はっ、春樹……?」


それでもどうにか声を絞り出し、やんわり手を振り解こうとしたけれど叶わず。さっきから春樹の視線を感じちゃってどうしようもない。顔が上げられない。


「あれから色々と考えたんだ」

「……え?」

そう言うと春樹は私の手を握る力を強めた。


「琢磨が言っていただろ?ムカつくことを色々と。あの時はこの先なにがあっても、俺の気持ちは変わらないと思っていたんだけど……」


言葉を濁した途端、ざわざわと胸が騒ぎ出す。
なんとなくこの後に続く言葉が予想できてしまうから。


「なんか……この家にひとりで過ごしていたらさ、自信なくなってきて」


予想通りの言葉に、ズキッと胸が痛む。


「まどかがいないと寂しかった。……その時さ、もしかしたら俺はこの寂しさを埋めるために、また浮気しちまうかもしれないって思った」


春樹らしい考え方だ。今までだってそうやって、何人もの人たちと付き合ってきたんでしょ?いつもの春樹だ。……なのに、な。
そう分かっているのに、悲しい気持ちになってしまうのはなぜだろう。
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