眠れぬ薔薇と千年恋慕
Ⅰ ─ 夜明けに眠るひと
三日間。
それがこの命に残された時間だった。
商人は言っていた。ヴァルキュロットの祭の間――三度月が昇り夜が明けるまでに買い手が付かなければ直ちに処分する、と。
「あーあ、残念だったなお前。もうすぐ夜明けだ。祭は終わる」
コツコツと近づいて来ていた足音が、わたしを囲う檻の前で止まった。
折り曲げた膝に寄せていた顔を上げれば、三日前わたしに値段をつけここに閉じ込めた商人の男が、愉快そうに笑っている。
人足の遠退いた薄暗い空間に溶け込む黒いローブに、青白く痩けた顔。
長く垂れた前髪の隙間から覗く大きな眼球が、好奇の色を浮かべながら、何も言わないわたしを見据えた。
「へへっ! 妙に落ち着いてやがる。普通三日目の夜明け前ってのは、売れ残りはどいつも命乞いして泣き叫ぶもんだぜ」
商人はしゃがむ。檻に目一杯顔を近づけて中を覗き込んでくる充血した眼は、不気味に光ったまま瞬きをしない。
「それともあれか? 連れて行かれるのが怖すぎて泣く余裕もないってか?」
「……怖がってなんかない」
「そいつは威勢のいいこった。――じゃ、そろそろ行くか」
ガシャン、と錠の開く音。
重く錆びた音を響かせながら檻の戸が開き、足首を締め付けていた枷が外された。
「出て来い」と伸びてきた商人の手に、首輪に繋がった鎖を引っ張られる。