わたしは年下の幼馴染に振り回されています
 教室に入って席に座る。まだチャイムはなっておらず教室の中はざわついていた。

 一息ついたのもつかの間、翔子の言葉が不意に蘇る。

 頬が赤くなるのを感じながら、自分の頬をつねった。

 付き合う、か。

 再会した当初より素直に受け入られるのは、今までの拓馬と過ごした時間の影響だからだろうか。

「坂木」

 名前を呼ばれて顔をあげると、舘山君の姿があったのだ。

 彼がためらいがちにわたしを見るのに気づき、さっきの翔子の話が頭を過ぎる。同じ道を歩いて帰る人にはそんなわたし達の姿を見る機会があったはずだからだ。

「何?」

 心臓の痛みを感じながら、彼に問いかける。
 彼は言いにくそうに頭をかく。沈黙の時間が延びるにつれて、わたしの胸の痛みも増していく。

「昨日、坂木の幼馴染が何か言ってなかった?」

「え?」

 想像していなかった言葉に、思わず驚きの言葉が出てくる。

 昨日のあれだろうか。だが、誤解は解けたはずだし、拓馬が気にしているとは思えない。

「ならよかった」

 彼はそのまま背を向けると自分の席に戻っていく。

 舘山君と拓馬。顔くらいは互いに知っている可能性はあるだろう。何かあったんだろうか。

 気になりながらも呼び止めることも、再び話を切り出すこともできなかった。
< 148 / 243 >

この作品をシェア

pagetop