わたしは年下の幼馴染に振り回されています
「もうのどが渇いていないからいいよ。今から出かけない? 少しだけでいいから」

「どこか行きたいところでもあるの?」

「ただ美月と出掛けたかったんだけど。用事があるならいいよ」

 千江美のことが頭を過ぎれど、そう言われて嬉しくないわけがなかった。

「分かった。いいよ」

 そこであわただしい心が一息つき、周りにも目が行くようになる。そのとき、拓馬の後方にある鏡で自分の姿を確認し、固まっていた。

「着替えてくるね」

 わたしは目を逸らし、できるだけ拓馬の目の前から逃げるように部屋に戻った。

できるだけ鏡を直視せずにクローゼットから黒の膝丈のワンピースを取り出した。

手櫛で髪の毛を整えると、黒のショルダーを手に階段を降りる。

 リビングの外から中を覗き込む。

 拓馬と目が合い、彼は笑顔を浮かべ、強引にわたしとの距離を詰めてきた。

 整った顔が至近距離に現れ、わたしは一瞬体を震わせた。

 キスされるかもしれない。そうとっさに思ってしまったから。

 だが、拓馬は顔を離すと、再びにこりと微笑んだ。

「似合っているよ。可愛い」

 さっきの戸惑う心を振り払うように、強い口調で言い放った。
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