わたしは年下の幼馴染に振り回されています
 詰まった言葉とは対照的に、彼の表情は落ち着いており、戸惑いなどは見られなかった。

 まるでセリフを読み上げているような違和感。

それは自分よりきれいな人に可愛いと言われたからか、現実味のなさを感じてたのかもしれない。

まるで映画のような遠い場所の出来事を見ているかのような感覚だ。

「坂木さん?」

 再びわたしを呼ぶ声で我に返る。

「ごめんなさい。それで何でしたっけ?」

 口にしてから、さっきの可愛いという言葉を思い出していた。

 彼は迷い猫のような目でわたしを見つめる。

 その儚げな様子にどきりとする。

「坂木さんは僕のことを知らないよね? 一応同じ学年なんだけど」

 自信がなかったのか、言葉を選びながら話しているようだった。

 同じ学年だったのか、と彼の言葉に気づかされる。

だが、彼の姿を見た記憶はない。名前は知らなくても顔だけは知っているということでもなかった。

 外部から入ってきた人はいるが、三年も同じ学校に通っていて気づかないことなんてあるんだろうか。
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