わたしは年下の幼馴染に振り回されています
 こんな人知らなかった。

 こんなかっこいい人を見て、忘れることはあまりないとは思う。

 そこに恋愛感情が伴わなかったとしても。

「仲直りって誰と誰?」

「お兄ちゃんと、お姉ちゃん」

「お兄ちゃんってそんなに佐藤さんと親しいの?」

「佐藤って誰?」

 わたしが佐藤さんを指す前に、彼はわたしの手をつかんでいた。

 言葉が出てこずに、彼を指差しかけた人差し指が宙を指す。

 視界に入ってきたのはあきれた妹の顔だ。

「受験生なのに大丈夫? 拓馬お兄ちゃんじゃない。苗字は伊藤じゃなかったっけ?」

「伊藤……たく……ま?」

 わたしの手をつかんでいた佐藤さんの笑みが悪戯っぽい笑みに変わる。

「久しぶり。美月」

 そのなれなれしい口調に、伊藤拓馬という名前。

奈月が兄と呼ぶ存在。わたしはそんな人を一人しか知らなかった。

 手を振り払おうとしたが、彼は強い力でわたしの手を握ったまま離そうとしない。

彼は奈月の登場でこうなることを見越していたのだろう。

「ああ、お兄ちゃんが自分の名前を嘘ついたのか。どうせよからぬことでも考えていたんでしょう。わたしは先に帰るから、二人で帰る?」

「ちょっと奈月」
< 24 / 243 >

この作品をシェア

pagetop