わたしは年下の幼馴染に振り回されています
「何がよ」

「俺が誰をずっと好きなのか」

 そのとき、拓馬がわたしの手をつかんだ。

急にそうされ、わたしの体から一瞬力が抜ける。

思わず壁にもたれかかるような状態になる。

壁伝い彼から逃げようとした。だが、拓馬は掴んだ手を離そうとしない。

 彼がわたしとの距離を詰めてくる。

「誰って」

 何度も言われた言葉が頭によみがえる。

 いつも彼はその言葉を笑顔で言ってきた。

照れるどころか、おはようとかさよならとか気軽に挨拶を言うように。

「言葉で言っても分からないなら、態度で示してもいいけど」

 そういうと、彼は身を乗り出してきた。

整った彼の顔がほんの少し手を伸ばせば届きそうなほど至近距離にある。

「拓馬」

「ここで声を出したら、奈月達がやってくるかもね」

 その言葉はわたしの言葉を奪ってしまった。

今の状況は拓馬にとってのほうが不利なのは分かっているのに、それでも言葉が出てこない。

ただ、金縛りにあったように目の前の彼の姿を見ることしかできなかった。
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