わたしは年下の幼馴染に振り回されています
 彼の顔が近づいてくると思い、目を強く閉じていた。

だが、次の瞬間、わたしの手首に回されていた力が解かれる。

そして、目の前から笑い声が聞こえてきた。

 目を開けると、拓馬はわたしを見て笑っていたのだ。

「期待した?」

「するわけないじゃない」

 からかわれたのだと分かる。体が熱を持ったように急激に熱くなる。

 だが、次の瞬間、目の前にあった拓馬の姿はそこにはなく、左側の視界の隅に、黒髪が見えた。

「してほしいと言うなら、いつでもそうするよ」

 彼が息を吐けば、それが届きそうなほどの距離で、耳元でそっとささやいていた。

「何を」

 思わず大きな声を出しているのに気づき、自分で言葉を止める。

 拓馬はいたずらっぽく微笑む。わたしから体を離すと、軽快な足取りでリビングの中に入っていった。

 わたしは自分の鼓動が乱れているのを実感しながらも、リビングに入ることにした。
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