わたしは年下の幼馴染に振り回されています
「俺さ、少しは大人っぽくなった?」

「え?」

「少しくらいは美月の好みに合うようになったかなって」

「好みって、何が?」

「彼氏候補になれそう?」

 わたしは拓馬の手をほどき横に動く。

拓馬は体をわずかに掲げ、顔を覗きこんできて、壁と拓馬に挟まれるような形になってしまった。

 彼と密着しているのも心臓に悪いが、動いただけで状況が悪化しただけのように感じられた。

「そんなの無理。わたしからすると十分子供でしかない」

 わたしは拓馬に嘘を吐いた。

彼の嘘を疑わなかった時点で彼を年下の幼馴染ではなく、同じ年の男の人として見ていたのだから。

 拓馬の手がわたしの頬に触れ、彼とわたしの瞳の距離も一気に縮まった。

拓馬と彼を戒めようとしたが、声が上ずりそうになり、言葉が出てこなかった。

 わたしが何もいわなかったのをどうとらえたのか分からないが、彼の行動はそれだけで終わらなかった。

拓馬の親指がわたしの唇の上をなぞった。

その彼の仕草がわたしに四年前の記憶を思い起こさせた。

振れているのは唇と手という違いがあったのにも関わらず。
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