わたしは年下の幼馴染に振り回されています
「お母さんから聞いた」

「僕、行きたくない」

「でもそんなの無理だよ」

 わたしは拓馬の頭を撫でていた。

 このときの拓馬はわがままなところがあったが、わたしによくなついてくれる可愛い幼馴染以外での何者でもなかったのだ。

 彼から好きだと言われても、子供の言うことだと軽く流してしまっていた。

「美月ちゃんに会えなくなるのが寂しい」

「また会えるよ。遊びにきたらいいよ。わたしはいつでも待っているから」

 わたしは弟のような可愛い幼馴染をなだめるためにそう告げたのだ。

 拓馬はわたしの腕の中でもぞもぞと体を動かすと、顔を上げた。そして、上目遣いにわたしを見る。

「美月ちゃんは僕のこと好き?」

「好きだよ」

「本当に?」

「本当に」

「ありがとう」

 そのとき、わたしの唇に何かが触れた。視界に入ってきたのは茶色の髪の毛とまだ成長する前の小柄な体。

わたしには突然の状況が理解できずに、彼の髪の毛が遠ざかっていくのをただ見守っていた。

 唇を離した拓馬はさっきまで泣いていたのが嘘のような目でわたしを見ていた。
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