わたしは年下の幼馴染に振り回されています
「戻ってきたら僕と結婚してね。だからそれまで待っていてね」

 そう言い残して彼は引っ越していったのだ。

 好きなことは好きだったと思う。だが、それは幼馴染や弟という存在として。

今の年になればその言葉はあまりにも重い。

 そのとき、頬に何かが触れた。

それが拓馬の唇だと視界に映る黒髪を見て気づく。

「拓馬」

「何?」

 わたしの頬から唇を離した彼は笑顔を浮かべる。

「今、キス」

「さすがに口にすると怒られそうだから、その代わり。あの時と俺の気持ちは全く変わってないから、覚悟しといてね」

 口調は優しいものだった。だが、言葉の中身は驚くほど強気のものだった。

まるで、わたしの心の戸惑いをすべて読んでいるのではないかと思うほどだ。

 さっきとは比べ物にならないほど、体が熱を持っていた。

「昔、拓馬のこと好きって言ったけど、それはそういう好きじゃないの」

「知っている。でも、美月にそういう意味で好きだと言わせてみせるよ。近いうちにね」

 そう拓馬は四年前を思い起こさせるような笑顔を浮かべていた。
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