わたしは年下の幼馴染に振り回されています
 拓馬はそう悪気のない明るい笑顔で口にする。

嬉しいけれど、視線の数が増したのを肌で感じる限り、周りにも聞こえていたんだろう。

「大丈夫だから。早く行こう」

 そう言って歩き出そうとしたわたしの手を拓馬が掴んだ。

彼はわたしが動揺する間に、わたしの鞄をするりと奪い取った。

「返して」

「病み上がりなんだから、安静にしないとね」

 それでも奪い返そうとしたわたしの手を彼はぎゅっと握りしめた。

「なんなら美月も抱えてあげようか?」

「馬鹿なこと言わないでよ」

 わたしは頬を膨らませ手を振り払うと、鞄を返してもらうことを諦め、早歩きで学校に行くことにした。





 昇降口は補習開始の少し前という時間帯からか、多くの人であふれかえっていた。

今までは人が多いで済んだ時間帯も針のむしろのうえにいるようなちくちくとした視線を感じた。

だが、その発端であろう拓馬はいつも通りで、彼の鈍感さがうらやましくなってきてしまう。
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