another woman
朝の通勤ラッシュ
今日、会社行かなくていいか。
そう思った。もう何もかもが面倒くさい。私の中でまたひとつひとつ入念に立てた1日の計画が積み木のように崩れ落ちていく。
「次は、新橋、新橋、」
しかし電車のアナウンスが鼓膜を通って脳内に響き渡るとともに、一気に現実の波は私の足をすくう。隣の人が読んでいる新聞が視界に映り、目の前の電子掲示板が今日の東京の天気を予報している。受験生なのか、あの学生はイヤフォンをしながら単語帳を開け、熱心に口をもごもごしながら英単語を暗記している。
携帯電話の電話履歴から会社の番号を探し、一度深呼吸をする。
だめだ、ちゃんと行こう。
「お待たせいたしました、ホットコーヒーでございます。」
「ありがとうございます..」
結局、ホームを出てすぐにある喫茶店の中に逃げるように入ってしまった。
会社行かなきゃ。行かなきゃ。そう思えば思うほど億劫になる。コーヒーをすすりながらその揺れ動く水面にため息をこぼした。
今日は行かないでいいか、そう思うと同時にそんなことでどうする、と反対する表と裏の感情が私の体の中で葛藤を繰り返す。
「だっていまの私はこんなに弱ってるんだよ、傷ついてるんだよ、可哀想じゃない。」
とりとめのない気持ちをひとまず置いて 、私はぼーっと喫茶店の窓の外を眺める。
駅構内の光景。この駅はオフィス街の最寄駅で会社勤めの人たちがよく使うから午前8時代はいつも人混みでごった返している。誰もが足をとめないその光景はまさに都会の象徴。社会の姿。いつもはその波に溶け込んでいたから気づかなかったけど、こうやって外から見ると、誰もが急いで、目的地へ向かう姿はりりしい。
スーツにメガネをかけたサラリーマンがせかせかとネクタイを直しながら歩く姿。
肩をぶつけられて舌打ちをする女の人。
携帯電話で大きな声で電話している新人らしき会社員。表情が困っている様子からして遅刻か何かか、それとも仕事のミスを謝罪してる様子か。
定期を落として急いで拾いに戻る、OL。
コンビニでソイジョイとヘルシア緑茶を買っているあのお姉さんはダイエット中なのかな。
なんとも色んな人がいる。色んな人がそれぞれ今日を精一杯働いて生きているのだ。私は一体なにをしているのだろう。
ひとつの幸せを逃しただけで人生が終わりになるわけじゃない。
何度も何度もそう言い聞かせた。なのに、後退してくすぶっている自分がとても憎い。
カツカツとなるピンヒールの音や、ざわざわとした人混みの音。シュッと駆け抜けていく都会の雑音、タクシー、電車、車、足音、声、風や匂いまで音を持ち、私の心の中に押し寄せてくる。フラッシュのようにその音は吸い込まれ、居なくなる。頭のどこか奥の奥の方でプツンと切れた音は私がいる場所と都会のフィールドを真っ二つに分断した。目を閉じるとそこは無音の世界。灰色の、薄暗い、隔離された世界。私はきっとそこから都会の街を俯瞰して、見下ろしているんだろう。もうひとりぼっちなんだ。そう思った。そしたら、投げやりになって、真っ白になって、目をつぶって、ふっと思い出して、ぼやけて、届かなくって。あれ、私、どこにいるんだろう。隣に誰もいない。ぬくもりがどこにもない。もうどこにも。
「今日という1日だって高得点で生きなきゃ」
そう昨日までは思ってた。
昨晩ベッドの中で、からっからに乾いた身体を、涙で湿った枕を、愛しい思い出に浸った心を、まるごと抱いて、眠りについた。
明日になれば忘れると、明日からはしっかり一人前の大人として生きていこうと。
あなたのことは一切合切忘れようと。
そう思ってたのにな。
そう思った。もう何もかもが面倒くさい。私の中でまたひとつひとつ入念に立てた1日の計画が積み木のように崩れ落ちていく。
「次は、新橋、新橋、」
しかし電車のアナウンスが鼓膜を通って脳内に響き渡るとともに、一気に現実の波は私の足をすくう。隣の人が読んでいる新聞が視界に映り、目の前の電子掲示板が今日の東京の天気を予報している。受験生なのか、あの学生はイヤフォンをしながら単語帳を開け、熱心に口をもごもごしながら英単語を暗記している。
携帯電話の電話履歴から会社の番号を探し、一度深呼吸をする。
だめだ、ちゃんと行こう。
「お待たせいたしました、ホットコーヒーでございます。」
「ありがとうございます..」
結局、ホームを出てすぐにある喫茶店の中に逃げるように入ってしまった。
会社行かなきゃ。行かなきゃ。そう思えば思うほど億劫になる。コーヒーをすすりながらその揺れ動く水面にため息をこぼした。
今日は行かないでいいか、そう思うと同時にそんなことでどうする、と反対する表と裏の感情が私の体の中で葛藤を繰り返す。
「だっていまの私はこんなに弱ってるんだよ、傷ついてるんだよ、可哀想じゃない。」
とりとめのない気持ちをひとまず置いて 、私はぼーっと喫茶店の窓の外を眺める。
駅構内の光景。この駅はオフィス街の最寄駅で会社勤めの人たちがよく使うから午前8時代はいつも人混みでごった返している。誰もが足をとめないその光景はまさに都会の象徴。社会の姿。いつもはその波に溶け込んでいたから気づかなかったけど、こうやって外から見ると、誰もが急いで、目的地へ向かう姿はりりしい。
スーツにメガネをかけたサラリーマンがせかせかとネクタイを直しながら歩く姿。
肩をぶつけられて舌打ちをする女の人。
携帯電話で大きな声で電話している新人らしき会社員。表情が困っている様子からして遅刻か何かか、それとも仕事のミスを謝罪してる様子か。
定期を落として急いで拾いに戻る、OL。
コンビニでソイジョイとヘルシア緑茶を買っているあのお姉さんはダイエット中なのかな。
なんとも色んな人がいる。色んな人がそれぞれ今日を精一杯働いて生きているのだ。私は一体なにをしているのだろう。
ひとつの幸せを逃しただけで人生が終わりになるわけじゃない。
何度も何度もそう言い聞かせた。なのに、後退してくすぶっている自分がとても憎い。
カツカツとなるピンヒールの音や、ざわざわとした人混みの音。シュッと駆け抜けていく都会の雑音、タクシー、電車、車、足音、声、風や匂いまで音を持ち、私の心の中に押し寄せてくる。フラッシュのようにその音は吸い込まれ、居なくなる。頭のどこか奥の奥の方でプツンと切れた音は私がいる場所と都会のフィールドを真っ二つに分断した。目を閉じるとそこは無音の世界。灰色の、薄暗い、隔離された世界。私はきっとそこから都会の街を俯瞰して、見下ろしているんだろう。もうひとりぼっちなんだ。そう思った。そしたら、投げやりになって、真っ白になって、目をつぶって、ふっと思い出して、ぼやけて、届かなくって。あれ、私、どこにいるんだろう。隣に誰もいない。ぬくもりがどこにもない。もうどこにも。
「今日という1日だって高得点で生きなきゃ」
そう昨日までは思ってた。
昨晩ベッドの中で、からっからに乾いた身体を、涙で湿った枕を、愛しい思い出に浸った心を、まるごと抱いて、眠りについた。
明日になれば忘れると、明日からはしっかり一人前の大人として生きていこうと。
あなたのことは一切合切忘れようと。
そう思ってたのにな。
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