⁂初恋プリズナー⁂
regret
颯ちゃんのもとから逃げ出して、1カ月が経過した。
私は、毎日淡々と会社と家の往復を繰り返している。
何も変わらない……平坦な日々。
ただ1つ違うのは、隣に颯ちゃんが居ない事だけ。
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「ピンポーン」
今日もインターホンが鳴って、来客を告げる。
今日はお母さんが休みで、玄関で対応してくれている。
微かに聞こえるやりとりの声も聞きたくなくて、2階の自室で耳を塞ぐ。
ドアが閉まる振動で、耳から手をはなすと窓に近づき、閉めているカーテンを少し捲り外の様子を窺う。
自宅前には見慣れた黒い車が停車されていて、移動する人影に慌てて、窓から距離をとった。
ドキドキ高鳴る心臓を服の上から手でおさえる。
少しして、エンジンがかかり、車音が遠のくのを確認すると、ほっと息を吐いた。
颯ちゃんはほぼ毎日駅前のマンションから、会社とは逆方向の私の家までこうして来てくれている。
1人の時は居留守を使い、お母さんが居る時は「具合が悪いから」と一切の取り次ぎを断ってもらっている。
今まで颯ちゃんにベッタリだった私の突然の拒絶に、当初はお母さんも「喧嘩でもしたの?」と笑ってたけど、長引くにつれて溝の深さを察知したのか、自然と私の前でその名前は禁句となった。
実際、颯ちゃんと距離を置いてから、精神的なものなのか体調を崩していたのも事実だったし、食事も殆ど口にしていないのを知っているから、お母さんは詰問もせず、見守る姿勢に転じてくれたようだ。
何より、私の体調を気に掛けてくれてるようで、固形物を受け付けない私に、食べ易く野菜をこま細かくしたスープを作り置きしてくれるようになった。
それもあまり喉を通らなかったけど、気持ちは凄く有難かった。
スマホは電源を切ったままチェストの一番上の引き出しにしまってある。
颯ちゃんは、連絡が取れないから心配して家まできてくれてるんだろうけど、私にはもう、合わせる顔もないし、その資格もない。
颯ちゃんが私に会いに来ると言う事は、香織さんがりこの正体を話してないと言う事だろう。
もしかしたら、私に騙されたとクレームを入れにきてる可能性は無きにしも非ずかもしれないけど。
玄関で声を荒げるとか暴れるとかないから、その可能性は低そうだ。