⁂初恋プリズナー⁂
判明
―――………。
―――――…………。
何か音がした気がして、意識が浮上した。
ぼんやり焦点が合わない瞳で、あたりに視線を流してみるけど、いつもと変わらない私の部屋。
愛用のルームウェアを纏って、昨夜夢で見たような乱れた形跡は何処にも見当たず整然としていた。
「当たり前か…」
何を期待したのか。
とても都合のいい夢を見た気がする。
いっそ、ここ数カ月の全てが夢だったらいいのに、と自嘲する。
それでも、恐怖や不安、寂寥の念等、心の奥深くで蠢いていた黒く醜い感情は不思議と霧散して。
多少身体にいつもの気怠さは残ってるものの、精神的には凪いていた。
起きるには少し早い時間だったけど、もう一度寝るには時間が足りない。
夢の余韻に浸りながら身体を捩ってベッドから出ると、前倒しで出勤の準備を始めた。
** **
可愛い人は、何をしても可愛い。
笑顔は勿論、女優さんなんて泣いた顔すら画になる。
少しつんとした怒った表情すら、愛くるしい。
だけど……。
更衣室での着替え中、何も言わず真横で睨まれるのは如何なものか……。
同性でも、着替えをずっと見られるのには抵抗感を覚える。
「河原さん……。何か、御用ですか?」
今日も滞りなく定時に上がった私は、更衣室で帰り支度をしていた。
先に着替え終わった河原さんは、何故か私の隣にきて不機嫌顔で。
早く何処かに行ってくれないかな……。
私のささやかな矜持で、グラマーな河原さんの眼前に自分の胸元を晒すのは流石に躊躇われ、自然と背中を向ける。
無言の河原さんに、成す術もなく、とりあえずこそこそ隠すように私服へ着替える。
元々仲が良い訳でもないので、そんな河原さんの行動がイマイチ不可解でならない。
居心地が悪いんですけど。
ロッカーをしめると、不機嫌顔のまま漸く河原さんが口を開いた。
「黒川さん……。ご飯でも食べに行かない……?」
「え?」
「何よ。どうせ用なんてないでしょっ」
顔だけ此方を向いて、身体はもうドアの方に向いていた。
どややら、私に拒否権はなく、ご飯を食べに行くのは決定事項らしい。
予定はないけど、和歌ちゃん以外の女の子……しかも河原さんと2人でなんて、緊張で死んでしまえる気がする。