⁂初恋プリズナー⁂
小林さんは謝りながら、席へ案内してくれる。
私の様子を窺いながら……。
バレてない……ハズ、大丈夫……!
自分に言い聞かせながら、小林さんの視線に気づかないフリをして、如何にも初めて来た感を醸し出す為にメニュー表を見て「色々ありますね~」なんて、河原さんに話しかけて小芝居をした。
そうして内心ドキドキしながら注文した物がテーブルに揃って、小林さんの姿が見えなくなると、私もやっと落ち着けて小さく溜め息を吐いた。
いや、後は颯ちゃんに出くわさないのを祈るだけなんだけど……。
「さて、いただきましょうか」
河原さんはペスカトーレと温野菜を、私は海老とトマトとアボカドの冷静パスタを頼んだ。
私達の間に会話はなく、黙々と口を動かくすだけ……。
気まずい……。
用があって、誘ったんじゃないのかな?
本当にご飯を一緒にするつもりだっただけ?
同期といっても、とくに親しい訳でもなく、仕事でも必要以上の会話をした事はなかったから、突然2人で食事なんてハイレベルすぎる。
交友関係が激狭な私に、こういう時のコミュ力は期待しないで欲しい。
微妙な無言の間に、どうしたら良いのか解らず、大人しくパスタをいただく。
「あ、美味しい」
食欲がないから、少しでもさっぱりした物をと選んでいたら、河原さんに勧められたメニューだ。
私の呟きに、河原さんは無言だったけど、目元が少し和らいだ、気がした。
水戸さんがかかわると恐いけど、根は悪い人じゃないんだろうな。
会社の人と食事なんて初めてだけど、こういうのもたまにいいかも。
「それで、本題なんだけど」
ゴクリ。
オレンジジュースが喉を通った音が大きくなってしまった。
それに構う事なく、河原さんは口元をナプキンで拭き終わると、話を続ける。
「水戸さんとは、どういうキッカケで親しくなったの?」
やっぱりと言うか、予想通りの展開というか。
昨夜の飲みの席での水戸さんの発言を振り返ると、そうなりますよね。
眼前の大きな双眸が、狙いを定めた獲物を逃すまいと凝視される。
それでも不思議と敵意とか剣呑な感じではなくて、ただ知りたい、という気持ちが前面にでていたから、緊張はするものの聞かれた事に素直にこたえた。
社食でハンカチを借りたのを切っ掛けに話す機会があって、たまたまパーティに付きそう事になった事。
社内で会えば挨拶を交わす程度だと説明した。