⁂初恋プリズナー⁂
修羅場
家を出る。
颯ちゃんと香織さんの結婚と、これからの生活の妨げにならないよう。
そして、私も赤ちゃんを安心して産める方法を考えて決めた事。
住み慣れた街と、慣れ親しんだ人達との別れは悲しいけれど、赤ちゃんを守る事を優先に考えると、やっぱり私が消えるのが最良だと思った。
颯ちゃんには、戻る場所がある。
私は……私の居場所はこれから新しく作り直せばいいだけ……。
将来、父親が居なくて、子供に寂しい思いをさせる日がくるかもしれない。
その時は、父親の分まで私が愛情をいっぱい与えよう。
あなたのお父さんを愛して生まれた命だと繰り返し説いて行こう。
そう決心した。
翌日、私は退職届を提出し、モメる事なくすんなり受理された。
特に仕事が早い訳でも、私にしか出来ない仕事がある訳でもない。
人員も十分潤っているし、1人居なくなって困るものもないのだ。
それでも、何の前兆もなく突然の出された退職届に、野村さんと三沢さんは狼狽し、私の妊娠を知る河原さんと早苗さんは、何となく察してくれたようではにかんだ笑みをくれた。
そして、何もなかったかのように午前の仕事にとりかかった。
今朝起きて、お母さんに退職する事と、少し落ち着いたら此処から離れて一人暮らしをしたい旨を伝えると、突然の事に表情を曇らせた。
理由を追及されなかったのは、ずっと私と颯ちゃんがギクシャクしてて、私が体調を崩してるのを察してくれてたからだろう。
お母さんからは、暫くお父さんの所に行ってみてはどうかと提案があったけど、そういうのも含めて、ちょうど今日お父さんが転勤先から一時帰宅するから、その時家族で相談しようとなった。
みしかしたら、お父さんの転勤先について行く事になるのかもしれない。
ううん、お母さんをこっちに1人残してはいけないから、家族で移住する可能性もある。
元々、お父さんは転勤の多い職柄で、お母さんと付き合ってる時から彼方此方転々としていたらしいし。
遠距離恋愛の末結婚し、新婚のうちはそう大きな動きはなかったけど、私がある程度大きくなった時に、また流浪の転勤生活が始まったらしい。