⁂初恋プリズナー⁂
それでお母さんは仕事を辞め、家族でお父さんの転勤について行き、今の家に越して来た。
偶然とはいえ、お隣がお父さんの同級生って事や私が颯ちゃんに夢中になった事もあり、家族ぐるみの親交はとても深かった。
そしてまた転勤の話が湧いて出た時、また家族で移動する予定だったけど、当時小学生だった私が同級生の男の子に嫌がらせを受けていた所為で、情緒不安定。
そんな私が転校先でうまく馴染めるのか、私がこよなく愛する颯ちゃんから引き離して果たして精神的に大丈夫なものか、それらを懸念した両親は、お父さんの単身赴任という選択をした。
その経緯を考えると、家族移住は十分にあり得る。
それでも今は、此処から離れられるなら何処でもよかった。
いつまでも親に心配をかけて、親不孝な娘だよね。
まだ妊娠の事は話せてないから、これからも心配をかけてしまうと思うけど。
どうか許して、お父さん、お母さん。
悪阻も酷くなってきてるから、赤ちゃんの事を黙ってるには、そろそろ限界かもしれないけど……。
妊娠してると言われて、そう言えば?と思い返してみると、食欲はないのにお腹周りが少〜し太ったかも、とは思いはした。
いつも着てる服がちょっと窮屈に感じる程度にはね?
一日一日、お腹は確実に大きくなり、赤ちゃんが育って行く。
私と颯ちゃんのお母さんは仲が良いから、引っ越したとしても、いずれ颯ちゃんの耳に入るのは必須なんだけど……。
色々勘繰られるかもしれないけど、赤ちゃんが生まれて数年、私達の話題に触れないようお願いしたら、お母さん承知してくれるかな?
数年して子供が居るとなれば、誰の子か解らないはずだし、颯ちゃんの前から私は消えてるんだし、香織さんは変な詮索をしないはずだ。
養育費も認知も要らない。
ただ、お腹の子と生きて行きたいだけ。
あ、それと、この仕事を紹介してくれた池田の小父さんにもご挨拶をしなきゃいけないな。
明日あたりお菓子を持ってお伺いしようかな。
お昼休みになって、河原さんと早苗さん社食で昼食を一緒にした。
昨日の妊娠判明から今日の退職届を提出まで、あっと言う間だった。