⁂初恋プリズナー⁂
だから、MRの水戸さんも、こういった研究者達の努力と執念を引き継ぎ、日々営業に励んでるんだろうな。
仕事を繋ぐって、凄いことだ。
だから、新薬を売り込む為、招待を受けた病院のパーティへ行くからついて来いと言われた時、会社の社員として私も貢献しなくては!と一瞬意気込んでしまった。
が、今では大いに後悔……。
それに相応しいドレスもないし、こんな不細工な私が行ったら周りに不快感しか与えないもんね。
売り込むどころか、モーゼのように海割っちゃうような気がする、主に人の。
私は足枷にしかならないよ。
そんな私を今日の華やかな席に連れて行こうだなんて、水戸さんは強者だ。
私なんかが行っていいのかな?
しかも、今日のパーティは、うちの取引先で1番大きなシェアを誇っている高坂記念病院の創立記念パーティ。
更に、院長の愛娘の婚約報告も含めたものらしい。
うちの営業部長も奥様と一緒に出席するらしいんだけど、水戸さんもパートナーを連れて行かなくてはいけないんだって。
その相手、私じゃなくても良いんじゃない?と思ったけど、睨まれたから頷くしかなかった。
あぁ……話を聞けば聞くほど、行きたくない……。
「う~ん、服は途中で買うか。じゃあ、とりあえず髪と化粧だけしてきて」
然も当たり前のように言われ、固まる私。
「あの……これでも一応、メイクしてるつもりなんですけど……」
言うや否や、訝しい顔をされてしまった……。
女子力底辺ですみません。
「そもそもこういうパーティには、うちの課の河原さんの方が適任だと思います」
いつも営業課に顔を出す可愛い河原さん、知ってますよね?
「まだ時間もあるし、野村さんや三沢さんに聞けば河原さんと連絡取れる人を教えてくれると思うので……」
「無理。裏表のある女とは関わりたくない!」
あ。
河原さんの表裏に気付いてるんだ。
それでも、私みたいなブスを連れ歩くよりは、絵になると思うんだけど……。
どうしたらいいものかと思案していると、突然、玄関に面した道路から声を掛けられた。
「おぉ!?りりが男連れてる!」
声の方を見ると、人懐っこい笑みを浮かべた颯ちゃんの弟の篠田晴太が立っていた。