⁂初恋プリズナー⁂

「へぇ~……。う~ん、まぁ確かに、あまりの変身っぷりに気づかないちゃあ………気づかない?か?」


顎に手を置き、今更上から下まで値踏みするように怪訝そうな顔をした。

出掛ける前は急いでいたので、変身姿をじっくりお披露目する時間なかったもんね。

そうやって改めて見られると……恥ずかしい。


「とりあえず解った。颯兄には内緒な!」

「あ、ありがとう」


その言葉にほっと胸を撫でおろすと、もう1つ重要な事を思い出す。


「あ、後、おばさんのボレロ……その……失くしちゃって……。同じの買ってお返ししたいから、何処で買ったか教えてもらえる?」


会場での出来事をどう説明したらいいのか解らず、濁らせながら弁償の意思を伝える。


「あぁ、気にするな。ずっと奥にしまい込んで着てないヤツだし、そのままりりが貰っとけ」

「そ、そういう訳にはいかないよっ」

「いいんだって!ほら、早く家ん中入らないと、颯兄帰って来るぞ。内緒にしたいんだろ?」


話は有耶無耶のまま、晴ちゃんに回れ右をさせられ、玄関へ押し出された。

ドアを閉める前に、晴ちゃんの後ろ姿を呼び止める。


「せ、晴ちゃん!今日は色々ありがとう」

「おう。可愛い妹の為だ!」


お礼を言うと、颯ちゃんに似た優しい笑顔が向けられる。

早く中に入るよう促され、ドアを閉めるまで見守ってくれた。

お母さんに気づかれる前に洗面所に駆け込んで、お風呂に入った。

服は隠すようにバスタオルに包んで、上がったら一緒に部屋に持っていく事にした。

お風呂に入ると、洗面所のドアが開く音がして心臓が跳ねた。


「梨々子帰ったの?」

「う、うん……」

「思ったより早かったのね。お母さんもう寝るから、戸締りちゃんとしてね」

「うん、解った……。おやすみなさい」

「おやすみ~」


ドアが閉まった音がして「はぁぁぁぁ~」と盛大に溜め息を吐いた。

メイクを落とすと、鏡に映っていたのは見慣れた地味な私。

洗った髪も、前髪がある貞子バージョンって感じで、自分でも異様な姿に落胆してしまう。

シンデレラは12時で魔法が解けて、現実へと戻った。

私も、さっきまでの夢のような出来事が終わり、リリーに戻る。

今日は、私も一時の魔法にかかっただけ……。

唇に残る柔らかな余韻を確かめるように、そっと指先で触れて、まだ鳴りやまない鼓動に、溜め息。

思い返されるのは、颯ちゃんとの……キス。

触れるだけの、軽いキス。
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