⁂初恋プリズナー⁂

私の……ファーストキス。

私、颯ちゃんと、き、き、き、き、キスした!

最初は何が起こったか解らなかった。

それをキスだと認識した時は、ただただ吃驚して、身体中の血が、血管の中を凄まじい勢いで駆け巡った。

信じられなくて、何度も指で唇をなぞって、唇が重なった時の情景を思い浮かべては顔がカッと熱くなる。

当たり前だけど、指と唇の感触は全く違って、重ねた唇の柔らかさを思い出しては胸がドキドキした。

それと同時に、きゅっと軋む音がした。

小骨が引っかかったような小さな痛みが、確実に私の心に波紋を広げている。


「おかしいな。王子様とのキスは、こんなに苦しいはずないのに……」


お伽話のキスは、愛の力で魔女の呪いを解くような力があって、とてもロマンチックで、幼少期の私はそれに感嘆の溜め息をついていたのに。

現実のキスは、凄く切なくて、悲しい。

颯ちゃん。

婚約者がいるくせに、どうして、りこにキスしたの?

キスって初対面でも出来ちゃうものなの?

そんなに敷居が低いものなの?

リリーの知らない颯ちゃんがいっぱいで、もう、何が何だか解らない……!

湯船に沈みながら、自分の中のモヤモヤを吐き出すようにぶくぶく泡をつくる。

ーーー忘れよう。

どうせ、もうりこになる事もないんだから、あの姿で会う事も2度とない。

リリーは娘であり妹であって、家族なんだ。

颯ちゃんは近い将来、香織さんと結婚するだろう。

私も……どうなるか解らないけど、いつかは結婚したいなぁとは思ってる。

おブスな私の現状では難しいかもしれないけど、希望は持ちたい。

颯ちゃんとは、小さい頃からずっと一緒だったし、これからも一定の距離を保ちつつ良い家族として居られたらと思ってる。

それだけでいいのだ。

忘れようと決断を下した直後にもかかわらず、私の脳裏にはキスをした直後一瞬見えた、颯ちゃんの惚れ惚れするような微笑み。

それに「ほぉ……」と熱い溜め息を零しては、はっとして頭を振って払いのけた。

私って学習能力低すぎだわ。
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