⁂初恋プリズナー⁂

「はい。この前のゆなちゃんとか、もう本当可愛くて内心キンキュンきちゃいました」

「じゃあ、将来お嫁さんになればいい。良き妻、良き母に」

「……でも……私なんか、結婚できるかどうか……」

「できるよ、絶対」


そう断言され、私は曖昧な笑みを返した。

颯ちゃんは知らない。

りこは、おブスなリリーなんだよ。

だから、余程物好きな人じゃないと、リリーは結婚なんて無理。

もし、りこの顔を通常運転にして、いつか誰かと付き合える時が来ても、私の化けの皮が剥がれたら、きっと逃げだすだろう。

颯ちゃんだって、今は前髪や眼鏡で顔を隠してるから平気かもしれない。

でも、素顔を見たらどうなるか……。

自虐的な気持ちで俯く私を、颯ちゃんは陽だまりのような温かい眼差しを向けてくる。

私の好きな微笑み。

刺を帯びた心を溶かすように、凪いたものへと変換させる。

自然と緩む頬は、どう頑張ったって引き締めるのは不可能だわ。

料理も美味しくて、一時の幸せな気分に浸っていると、颯ちゃんが急に哀しそうに瞳を揺らした。


「俺には、凄く大切な()がいるんだ。隣の家の女の子で、小さい頃からずっと一緒に過ごしてきたんだけど……」


ドキッとした。

私(リリー)の事だ……。


「会社は違うけど、いつも一緒に出勤していたのに、昨日と今日は何も言わず1人で先に行ってしまうし、お昼に連絡をしても返事はない。電話しても出ないし。前もって言ってくれれば、早出だろうと何処かに寄るのにだって送ってくのに。それとも何か気に障ったことでもしたのかと思って」

「えっ?」


そういえば、今日はスマホは鞄に入れたままだった。

先に家を出たのは、キスしちゃったから、颯ちゃんの顔をまともに見れる自信がなかったから。

だいたい、本人を前にスーツをクリーニングに出せるわけがないっ。

出勤時間だって、本当は颯ちゃんの方がもう少しゆっくりできるのに、私に合わせて早く出て送って貰ってる状況で、十分心苦しい。

お昼も、今日はメイクの時間もあったから、きっかり定時にあがる為に午後の分を前倒しで片付けた。

キスした記憶を隅におしやるように、必死に頑張った。

今日1日、いっぱいいっぱいで、スマホ見る時間なんてなかった。
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