とある悪女の物語。
「なら俺が包帯が取れるまで面倒を見る。それでいいか?」
……は?
黒崎さんが言ったことに驚きのあまり目を見開いた。
「……でも黒崎さんは何も関係が…」
茉莉の疲弊の原因は黒崎さんだ。そして彼女持ち。そんな人が茉莉の傍にいれば余計茉莉は苦しんでしまうに違いない。
「……こいつのことは知ってるし、こいつも俺を知っている。なら問題ないだろ」
待って。問題しかない。
きっぱりと言い切った黒崎さんが何を考えているのか到底私には分からない。
黒崎さんと茉莉は何かあったんだろうな、と茉莉の憔悴具合からは把握している。それについては一切茉莉は語ってくれなかったけれど、黒崎さんと面識がある言うことはそういうことを意味するんだろう。
黒崎さんは遊び人として有名だったから。こんな可愛い茉莉に手を付けない筈がない。
でもだからって。
「……黒崎さんには彼女がいるじゃないですか」
茉莉を捨てた人間が今更どうして近づかなければならないのか。
吐き捨てるように言った私に黒崎さんは何も感情を見せることなく口を開く。
「……あぁ、別に問題はない。そもそもケガの原因の一つもアレにある」
アレ、とは彼女のことなんだろう。彼女を差し置いて他の女の元へ行くと言っている割にはあまりにも淡白で、罪悪感何て微塵も黒崎さんからは感じない。
そんな黒崎さんなら余計茉莉に近づいてほしくないと思う。
でもこんなにもボロボロになった茉莉に私の言葉は届かない。ご飯を食べてと言っても食欲がないと返されるし、寝てと言っても眠れないと返される。
……そんな茉莉の状況を変えられるのは皮肉なことにこの男しかいないと言うのも分かっていた。
何が茉莉のためになるな何て私には分からない。私が決めていい話ではない。
「……茉莉に、決めてもらいましょう」
だから私はこう言うしか出来なかった。
そしてどこか、茉莉はきっとこの話を受けてまた苦しんでいくんだろうなとも予感している自分がいた。