とある悪女の物語。
私が目を覚ますとそこには黒崎さんがいて、回らない頭で混乱している内に私は多大な失態を犯してしまった。
『俺が面倒を見る。それでいいだろう』
『え、っ、は、は、い……?』
『決定だな』
『…………え?』
あの時の私にもっとしっかりしろと言いたい。
ヤることヤった関係だからと開き直れるわけないじゃない。寧ろ抱き締められたことさえないのに、こんな至近距離であーんだ何てキャパオーバーだ。
それに加え最大級の申し訳なさと羞恥とこの状況の信じられなさがぐちゃぐちゃになって、正直泣きたい。それも大号泣したい。泣いたらこの状況から解放されるのだろうか。
……いや、私が泣いても黒崎さんは気にもしないだろう。
「……早くしろって」
私が口を開けれずにいると、黒崎さんは私の唇をその長い角張った指で強引に抉じ開けてスプーンを突っ込んだ。
……もういやだ。
味が分かるわけない食べ物を辛うじて咀嚼しながら、唇に触れた冷たい熱に劣情が込み上げる。
こんなことになるなら遥かに遠い存在であった時の方がマシだ。
近いと、わけが分からなくなってしまう。
スプーンなら左手でも使えるのに黒崎さんは聞き入れてくれなかった。
どうして、と全てのことに疑問しか沸かない。
何も分からない。
また次のあーんを差し出す黒崎さんには彼女がいるだろう。こんな私にこんなことをしている場合ではないだろう。
今度は小さく口を開けた私にスプーンをねじ込んだ黒崎さんの手つきは荒く繊細とは言えないけれど、もう食べれないと次のあーんに首を振った私には顔を顰める。
そんな黒崎さんがもうただ分からない。
放っておけばいい。私に構わなければいい。私が勝手に行動したことだ。
なのにこんな戯れを黒崎さんはするのだ。
それでもこうやって黒崎さんの近くに居れることをどこかで喜んでいる私は___本当にどうしようもない。