切れたミサンガを糧に。
数秒間私の身体と思考が硬直した。


抱き寄せられた時の微風で同級生から香った柔軟剤が

私の脳内を痺れさせる。


「願掛けっつーか、切れたら言おうって思ってて。」


腕の中で聞く同級生の声は上から降るというよりも

内側から響くようだった。


人生で初めて家族以外の異性に抱き締められたのに、

神経だけはやけに敏感だと思う。


耳に入る同級生の呼吸音と鼓動の間隔が短い。


同級生の腕の緩みでできた隙間から私は顔を彼の首の方向に向けた。


急かされたと思ったのか同級生は「あ」や「え」、「その」と

言葉を発しようとする。


しかし言葉にうまくならないようだ。


そんな必死になっている同級生を少し落ち着いた私は可愛いと思った。


私は再び、次は自らの意思で、同級生の胸に顔を埋めた。


そして彼の私を包み込むために丸くなった背中に、両手をそっと添える。


《終わり》
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