冷たい舌
『―お前の、絶望だよ、透子』

 声は嗤いを含んで続ける。

『本当は龍神を憎んでいるくせに―
 自分の運命を憎んでいるくせに―』

 透子は、もうずっと背けてきた心の奥底の真実に耳を塞ぐ。

「違う、違うっ!」

『なんで自分だけがと思ったことがないと言えるのかい?』

 なんで私だけが―

 どうして私だけが―

 生まれたときから、人と何処か違っていた。

 極普通の日常を演じながら、いつもそこに少しずれた何かが、ぱっくりと口を開けていた。

 龍神の巫女でさえなければ、とっくの昔に和尚と結ばれて、幸せになっていたはずなのに。

 そう思ったことがないと言える?

 それは誰かの声であって、誰かの声ではなかった。

 透子自身の声でもあった。
< 247 / 396 >

この作品をシェア

pagetop